(むかし、NHK教育にて、登場人物が勝手に作った紙芝居
「おおげさももたろう」「ひかえめももたろう」
が面白かったのが激しく悔しかったときに、作ったお話)
「きくばりももたろう」
Once upon a time ago
あるところにおじいさんとおばあさんが住んでおったそうな。
おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に。
ある日おばあさんが川で洗濯をしていると
「ちょっと、よろしいですか~」
と上流から声がします。
おばあさんが顔をあげたタイミングを見計らって、大きなももがどんぶらこっこと姿をあらわし流れてきました。
おばあさんがももをひろいあげ、しょって帰る道すがら、なんとなく
桃がまんなかへん(腰)を浮かしたような気がしました。
おじいさんが帰ってきたところで、おばあさんが桃を半分に割ると
中には男の子が正座ですわっており
「こんにちはーーっ!!!!!」
開口一番、松岡修造のげんきな挨拶をしてきました。
老夫婦はなしくずし的にこの子を「ももたろう」と名づけかわいがることに。
そうこうしているうちに、鬼が近隣の村を襲いはじめているという噂が流れてきます。
老夫婦が鬼討伐の話をももたろうに振ってみたところ
「うーん、・・・そうだね! 折角誘ってもらったことだし、行く行く!」
ももたろうはちょっと体調がよくなかったのですが、「顔だけでも出すよ」と快諾しました。
おじいさんがこしらえた羽織や旗を見て、ももたろう
「あれ?おじいさん・・・
これ、プリントじゃなくて手刺繍!? すっごくいいじゃん! 実用性を損なわずしてオシャレじゃん!」
おばあさんがこしらえてくれたきびだんごを見て、ももたろう
「うっわ~~~!なんすかこれ! もう見るからに普通のだんごと、ちゃう!
ここからもう、香ってくる!(手あおぎ)」
レポーター芸人を見て学びさらに上をゆきました。
ももたろうが討伐の旅に出発した道すがら、いぬ・さる・きじに出会ったのですが
「ちょっと、鬼退治に付き合ってもらってくれないかな?」
とライトな感じでお願いをすることで、彼らとの距離がグッと縮まりました。
さて
鬼が島に到着したところでももたろう、まずは正門のところで襟をただしぞうりの表面をひと拭きしてツヤを出すと(身だしなみは足元から)、
門番鬼にアポイント状況を確認した上で用件を伝えました。
そもそもこのようなチャレンジングな訪問者はいなかったので、ただちに上のほうの鬼が応対に出てきました。
鬼「おれたちは人間を襲って食べ物や宝物を入手して暮らしているわけなんだよ」
桃「いや、そうしなくてもやっていけると思います」
鬼「いいや絶対にこれからもそうする。ガオガオ」
桃「なるほど。あなたの話を聞いているとたしかにそれも正しいやりかただと思えてきました。
でも、他のやりかたもあるっていうのも正しく感じられるんだけど・・・どうかな?」
さすが、まずは歩み寄って相手の精神的ガードを解きます。
桃「ところで、なんでそのやりかたを続けてきたのですか?」
鬼「ずっと昔からそうだったからだよ」
桃「昔っていうと・・・?」
鬼「俺のじいさまも同じような鬼だったから、100年以上は前だろうなあ」
桃「そうですか、どんな感じのおじいさまで?」
話題を自然に変え、この日は戦わないまま和やかに世間話をして帰ることになりました。
帰り際にはこの上層鬼の特徴をメモし、「今日は楽しいお話ができてうれしかったです」といった簡潔なお礼メールを即効送信しておきました。
ももたろうは、そのあと何度かこの暇そうな鬼とアポをとって会話し、
「鬼さんそういえばこの前、和風なカゴが好きだっておっしゃってましたよね!
ミッドタウンのなんと "とらや" で、いい感じのを売ってたんですよ~」
などと盛り上がりました。
「今度一緒に、うちのボスも交えて呑みませんか」
という言葉が鬼から出るのに、さほど時間はかかりませんでした。
ももたろうは、この鬼からボスの話をさりげなく聞き出し、
ボスが好きだという自家製ドライトマトを手土産に単身、鬼の城本丸へと乗り込みました。
それはそれは手厚い歓待を受け、虎ビキニの鬼女子を両脇にセットしてもらいつつ
ボスと何日も何日もオールで飲み明かしたのですが、
お礼を言って城から出たところで、いぬ・さる・きじが餓死していました。
(完)
■参考文献: 山崎拓巳「気くばりのツボ」サンクチュアリ出版